欠損の原因と結果・残存歯の状況
残存歯の配置と咬合支持
欠損様式の分類と治療方針
良き補綴物(デンチャー)


超かんたん技工に必要な欠損補綴学(4)
良き補綴物(デンチャー)とは  
デンチャーの考え方は時代とともに徐々に変化しています、現在はリジッドかフレキシブルかの二者択一の様相です。どちらを選択するかは術者の考え方次第で選択されているように思われます。
ではリジッドとフレキシブルを理論上から考察すると、明らかにフレキシブルデンチャーが利にかなっています。残存歯と粘膜の非圧縮量の違いをマイナーコネクターやメジャーコネクターで吸収して支台歯に負担を掛けない方式は誰もが納得していました、当時も今も・・・。
しかし、経過観察していくと顎堤の吸収や義歯の破損などが頻繁に起こり理論上の動きは口腔内では害を与えてるような症例が散見されるようになりました。そこでI−barパーシャルでもリジッドサポートに近づくするように軸面を工夫するようになり、コーヌステレスコープやミリングのような究極のリッジドサポートのデンチャ−に移行してきたのだと思われます。

なぜリジッドサポートなのか?

それはリジッドサポートにすればデンチャーの動きを考えなくてよく頭の中がスッキリするからです、これが答えです。
フレキシブルでは義歯床下にかかる咬合圧をどの位逃せばいいのか、例え逃げても顎堤が吸収してしまえば床付きフレキシブル延長ブッリジになってしまいます。でもリジッドにしても全く同じ現象を発現します、これは床付きリジッド延長ブッリジなのです。あまり差がないように思われますが、リジッドのほうが支台歯に懸かる負担が大きくフレキシブルは義歯の構造と顎堤に負担が懸かります。ただリジッドデンチャーは残存歯に負担が掛かりトラブルが多いのですが、しかし総体的に予後がよく義歯が動かないだけ残存歯は生理的範囲内に抑えられるから良好な結果に繋がっているのではないでしょうか。

失うものと得るもの  
I−barパーシャルでも都合のいい鈎歯を欲するために外形を変えることもありますが、リッジドサポートでは歯質を削除しなければ作ることができません。たとえそれが健全エナメル質でも削らなければならないのです、また欠損歯列では支持組織の退縮や外科処置で歯根露出してることも多く最悪は抜髄に至ることもあります。
特に前歯と大臼歯を支台歯とした場合は、抜髄か審美の犠牲の上で成り立つ補綴物で患者さんに対して大きな侵襲を与えてしまいます。
そのお陰で、メンテナンスや咬合再構成、機能性や審美性を併せ持った術者の予定どうりのものが完成できるのではないでしょうか。
 

コーヌスとミリングデンチャーの違い  
ミリングデンチャーが勝っているのは唇側のカンツアーと審美性のみで、それ以外はコーヌスに軍配があがります。
コーヌスデンチャーには強度を増すこともできますし開放された内冠はメンテナンスしやすく、歯の全周で維持、支持、把持の機能を有し、不測の事態にも容易にリカバーでき長期間使えるとてもリーズナブルなデンチャーと考えています。
 

 

リジッドサポートで感じたこと  
私は1985年頃からリジッドサポートへと考え方が移っていきました、当時作業ステップの煩雑さ不慣れなミリングに手こずりながらも何とか完成に漕ぎ着けていました。ただ維持力の調整や最終装着時のプレシャーにいつも悩まされコーヌスを受注したときは常に徹夜を覚悟していました。
しかし、症例をこなしていくと難題も解決する術を見つけることができ1988年に歯科技工に作業ステップと維持力についての論文を書くことができました、しかし長期観察していくと (技工所として) 新たに問題点が現れてきては苦慮しているのが現状です。
20年の経験で感じた事や現在のコーヌスデンチャーに対する心構え、新事実、新たな問題点を箇条書きに記載いたしますから皆さんの臨床に少しでもお役にたてば幸いです。
 
コーヌスデンチャーに対する心構え
  ・治療、プレパレーション、印象など他のステップの基本が備わっていること
  ・歯科技工士、歯科衛生士も治療計画の段階から参加しよう
  ・中途半端な設計より大胆な設計ほど予後が良いように感じる
  ・ダウエルコアーから完成まで一人の技工士が担当すること
  ・ステップごとにエラーを消していき、問題があれば戻る勇気をもつこと
  ・メジャーコネクターが入っていないものは壊れやすい(対合の欠損様式にもよるが)
  ・義歯の安定は動揺度や炎症の改善に繋がる
  ・ポツポツ起こるトラブルは見えないところで原因が繋がっていることが多い
  ・予測できるトラブルは回避できる
  ・前歯と大臼歯を支台歯とした場合、歯髄か審美のどちらかの犠牲の上で成立する
  ・内冠引き上げ印象は外冠のマージン位置の決定のためである
コーヌスデンチャーに対する技術的心構え
  ・フェルール効果を得るため歯肉縁上1.5〜2.0mmの歯質を獲得しなくてはならない
  ・残存歯質がなくポストのみで内冠を維持してる支台歯は歯根破折の危険がある
  ・ネガティブが多くなっても出来る限り抜髄しない
  ・審美性が犠牲になっても構わないのであれば縁上マージンも選択肢に
  ・維持力とはどんなに大きな咬合力でも変わらないものである
  ・支台歯保護のため内冠は早めにセットする
  ・金属疲労しやすいパラジュウム合金はコーヌスには不適である
  ・即時重合レジンの床は外冠脚部で緩んでくるし、長期的なトラブルを抱えてしまう
  ・維持力は最低10年以上は変わらない、変化するのは何処かに不備なところがある
  ・1本1本の維持力が確実に設定してあれば支台歯が減っても対応できる
  ・レジン部分 (特に人工歯) のリメイクは常に心掛けておく
コーヌスデンチャーの新事実
  ・片顎コーヌスは禁忌
  ・ケルバーの禁忌症群の症例でもコーヌス以外で満足する方法はない
  ・維持力は内冠が外冠の頂上にあたった時点で決定される
  ・マージン部から内冠が立ち上がるから削除量が多くても内冠の大きさは変わらない
  ・コーヌスデンチャーはポーセレンワーク以外全ての技工が網羅された究極の技である、
  ・内冠の形態や大きさで維持力が大きく左右される
新たな問題点
  ・人工歯の磨耗で顎位が変わっていく(短期間に)
  ・外冠マージンの設定位置は現在でも難しい
  ・外冠のファセットの発現は咬合力の過多か?
  ・欠損側に隣接してる有髄歯でも破折することもあり、反射機能が鈍くなるように感じる
  ・作成する技工士が同じなのに・・・歯科医師に大きな偏差値みたいなものがあるようだ

以上欠損の始まりから、六つの「カギ」、分類方法、治療方針、コーヌスデンチャーまでの一連の流れで解説してきました、ご批判や訂正も沢山あるのではと思っております。
長年臨床ケースを見続けてると努力の甲斐なく失われていく歯牙を目の当たりにすることも多く、自身の未熟を痛感したり、想定外のトラブルに幾度となく泣かされたこともありました。その都度何らかのヒントや戒めを患者さんから教わることができました。
これまで、多くのの先生方の著書や論文を拝読して得た知識や、友人からの貴重な情報をここに記載し皆様に少しでもお役に立てましたら嬉しく思います。

ここで、奇麗事では済まない臨床の奥義や経過観察等の論文を執筆なさるコーヌスデンチャーの教祖黒田昌彦先生やいつも私を導いてくれるようなコメントを戴く技工士の玉置博規さんにここで感謝とお礼を申し上げます。このコーナーは黒田先生や金子先生、宮地先生、その他大勢の方々の著書や論文を参考にして書き上げたもので皆様の日々の努力を書き綴ったものと思っております。
ほんとうに有難うございました。