総義歯の考え方 ・ 義歯に関係する筋肉
義歯の成否につながる筋肉
模型に現れるランドマークから完成まで
咬合の重要性
狂いの発生源


超難解 総義歯学(1)
総義歯の考え方  
患者さんに総義歯を装着して満足していただけるときと、調整を何度繰り返しても納得してもらえなかったりで困ったことはありませんか?
免許を持っている私達は総義歯の形を成すことはそんなに難しいことではありませんが、全ての患者さんに満足できる総義歯を作ることはとても困難なことだと感じています。
他の補綴物とは違い基準となる全ての歯牙が喪失し顎堤の吸収が起こっていては、設計図が無いのに建物を建てることに等しいと思います。
しかし、数千年経過した遺跡からでも残されたランドマークや生活様式を知って復元することができるなら、顎堤や顔貌から天然歯の配置や顎位等も以前に近い状態まで復元できるのではないでしょうか。
つまり、復元するに必要な学問を習得する努力を常に払っていれば、難症例に遭遇した際にも口腔の機能と役割などを知っていると容易に対応でき、診査・診断でランドマークから復元するヒントが見つけることができるのではないでしょうか。

また、経験が不足がちの方には一種の”博打”のような一発完成総義歯はとても危険なことで、それなりの負担を払った患者さんには仮に旨くいけば当然と思われ、問題が発生したときには調整に多くの時間を費やさなければなりません。
時として再製や来院されなくなる(見限られた)最悪の事態に陥ることもあるのではないでしょうか。
私は完成された物に対しては出来る限り少ない調整で済ますことが良い補綴物だと考えています、なぜならば誤差を生じやすい間接法で調整が少ないとは全ての工程が完璧に近い作業が行われてる証と考えているからです。但し口腔内でしか調整できない箇所も当然あるわけですが・・・
完成した義歯をいじくることは躊躇しますが、治療用義歯では足し算や引き算をしながら筋肉の作用や顎位の修正が可能で少しずつ作りあげていけるのです、この時点で満足するものができないならば最終義歯も確実に満足してはもらえないでしょう。
総義歯を成功に導くには解剖学で得たノウハウを義歯全体に表し、食習慣や顎位などに伴う個人差や微妙な箇所は治療用義歯で試行錯誤でモールディングし出来る限り完成義歯には手を加えないようにすることだと確信しています。
次は義歯に影響する筋肉の作用について学びたいと思います。


義歯に関係する筋肉
表情筋と咀嚼筋
頭蓋の前面に拡がっている筋肉には表情筋と咀嚼筋があり それぞれ付着形態や機能、神経支配に大きな違いがあります。
表情筋は浅頭筋とも呼ばれ表層に位置し頭部全面に24の筋肉が存在し特に総義歯に係わる口裂周囲の筋肉は12あります、表情筋は骨からおこり皮膚に停止し、皮膚からおこり皮膚につく、つまり筋肉が収縮すると皮膚が骨に近づき顔面の表情を作るのである。
咀嚼筋は深頭筋とも呼ばれ下顎枝の内外面に位置する4つの強大な筋肉群で頭蓋骨よりおこり下顎枝に付着し収縮によって下顎骨を持ち上げ咀嚼運動を成立するのである。
 
舌骨上筋群と舌骨下筋群

下顎骨と胸骨の間を縦走する筋肉で舌骨を境に上にある筋肉群を舌骨上筋群、下方にある筋群を舌骨下筋群といいます。
それぞれ4つの筋肉が存在し舌骨を介して上に収縮する筋肉と下に収縮する筋肉で下顎と舌骨が動くための筋肉で、舌骨上筋群は下顎骨か舌骨のどちらか一方を固定したときに対する骨が前、後、上、下の一方向へと動くのである。
この、舌骨上筋群で総義歯に係わる筋肉が二つあります。
一つはオトガイ舌筋で舌尖を前方に突き出したときに舌筋が上方にあがり義歯を浮かせる要因となります、しかし普段の生活ではそのような限界運動をすることも少なく問題にはあまりなりません。
次に下顎義歯の安定に大きく係わるクセモノ筋肉、顎舌骨筋です。
この筋肉は下顎骨の顎舌骨筋線より起こり舌骨の前方部に停止する筋肉で、舌骨を要として扇状に下顎骨に広がっています。
作用は下顎骨を固定したときは舌骨が挙上し、口腔底を上げ浅くする、この際舌も挙上するのである。この結果舌は口蓋に対して圧を加えたまま、食物を後方におしやるのです。
これを嚥下運動といいます。
つまり義歯が装着されている口腔内で嚥下運動時に浮き上がるときは、顎舌骨筋部が長く義歯を押し上げてると考えるべきです。

次のページでは義歯の成否につながる筋肉を学習したいと思います。