きょうの臨床
 
上顎総義歯適合 その1 その2              2009.6.26
 

上顎総義歯が吸着する、しないの問題はおいといて、ここでは加熱重合による収縮変形を補償するために講じた対策の結果を報告 します。
加熱床用レジンは重合時に収縮するのは知られているが、何故収縮し変形に至るのか当方は判りません。ただ液体が固体に変態するときに凝固収縮が起こるのは 知識で知ってはいますが、そのメカニズムを知る由もありません。
ただ臨床上、その変化の大きさは時として再製に及んで、責任のなすりあいに発展することもある。
その解決方法はメーカーの情報や雑誌等で紹介されているが、今一信じることが出来なかったのと、当方には実行する勇気がなかったのです。
以前より、”ぴんぽんまん”さんと総義歯の重合収縮の実験はしていたが、実践することに躊躇はしていました。

この度、偶然にもレジンのみで仕上げる上顎総義歯が、2症例舞い込んできました。
当方ではメタルプレートの付かない上顎総義歯は数年に一症例くらいのペースでして、このようなことは奇跡に近いのです。
お二人ともその歯科医院と10年以上お付き合いしている患者さんで、ドクターにその旨を伝えて了承していただきました。当然再製を覚悟すれば”チャレンジ してもよいかなー”という気持ちと、実験結果から少しの勝算を信じていたことも、心を動かしました。

その代わり、どんなに忙しくても立会いに伺うと心に決め、作業を進めました。
まあー、上顎の総義歯で吸着しないのは、「お前の技量が足りない」のだと指摘されることも承知で、私の臨床と作業方法を簡単に記載し、その結果をご報告し ます。

以前は、イボクラールから高膨張の硬石膏が発売されていましたが、現在は中止されているようです。日本メーカーでは、イボカップ用高膨張石膏ジプストーン GHがサンエス石膏から、 DSラシオストーンがオーディック株式会社(旧岡本歯研)から、それぞれ発売されています。他にもありそうですが・・・。共に、高膨張をうたい文句にアク リル樹脂の重合収縮を補償するように、0.5〜
0.32%硬化膨張するように設計されています。
実際アクリル樹脂は重合時に0.4〜0.6%収縮しますから、論理的には整合性があります。但し3D(立体)での補償が達成されるのか疑問が残るし、勿論 口蓋部の深さによって、膨張を変えなければならないことも今後の課題でしょう。

症例 その1

今回は諸事情でGC社のニュープラストーンFast Setを使いました、この硬石膏は線膨張係数が0.25%と若干少ないように思われますが、医院側が注いでくれましたので仕方ないでしょう。
多くのステップを経て完成し、口腔内に装着して見ました。結果、吸着や咬合関係にも問題がないように感じましたし、患者さんに伺っても圧迫されている感覚 もなく ”よさげ” でした。
両パッドと口蓋隆起は0.35mm厚のリリーフをしてあります。


しかし、客観的に判断できるようにフィットチェッカーを入れてみました。
いつもは上顎結節の外側に、圧迫されシリコンが抜けたような部分が見受けられるが、今回は平均的な厚さになっていました。



両側のシリコンの厚さを測ってみたところ、上記のような数字になりました。
また、問題があれば来院してくださいと伝えてあるが、装着以来一週間来院していません。
これをどのように判定するかは皆様の判断にお任せいたします。

症例 その2


この症例は全くリリーフしていません。
粘膜部2箇所とバイトを少々調整し、その後この方も来院していません。

両ケースとも口腔内の粘膜にはフィットすると思われるが、他に大きな問題が発生します。
それはバイトに変化が現れるのです、上記のように必ず隙間が発生するため、バイトがその空隙量だけ高くなっているのです。もし重合後リマウントしてこの位 置で咬合調整してしまうと、いざ口腔内に入れてみると後方臼歯部が低くなってしまうのです。
何らかの方法で、この空隙量だけ高く設定した咬合器で、リマウントする必要があります。
皆さんはどのようにお考えになりますか?
だらだらと長くなってしまいました、私が取った方策は後ほど・・・
 
 
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