ガムかんで虫歯菌退治
「虫歯菌をやっつけるの」。食後にキシリトール入りのガムをかむ園児(埼玉県の秩父幼稚園で)
お弁当が終わった順に、園児たちは歯を磨き、保育士からキシリトール入りのガムを受け取って、かみ始める。2、3分で味がなくなると、紙に包んで捨て、園庭に飛び出していった。
埼玉県秩父市の秩父幼稚園では1997年から、虫歯予防のために昼食後、年少組にはキシリトールのタブレット(錠剤)を、年中・年長組にはガムを
与え始めた。同市内の今井歯科クリニック院長、今井美行(よしゆき)さん(46)が園医になって、虫歯の多さに驚いたのがきっかけだ。
口内の細菌は、糖分を取り入れて酸を作り、歯を溶かす。ところがキシリトールは甘味料ながら、細菌の増殖を抑える。しかも酸を出さず、歯垢(しこ
う)(プラーク)を減らし、はがれやすい状態を作る。ガムをかむと唾液(だえき)の分泌量が増えるので、歯が溶けるのを防ぎ修復を促す効果もある。
今井さんは「キシリトールの効果に加え、歯を守るには、口内の細菌を減らし、環境を整えるのが大切という理解が親子に定着するのも重要」と言う。
ガムをかんでいる理由を子供たちに質問すると、「虫歯菌をやっつける」と声を上げた。園長の柴原真紀さんは「うちの幼稚園で、虫歯は増やさないという気持ちです」と言う。
市内のある小学校の新入学児童の乳歯の処置前後の虫歯は平均7本だが、同幼稚園出身者は3本。唾液検査で虫歯の原因となるミュータンス菌を調べると、菌が検出できなかった児童が、この小学校では25%だったが、同幼稚園では70%を占めた。
親は治療跡だらけでも、子供の歯は守りたい。そのために今井さんは、〈1〉適切な歯磨き〈2〉甘い物は、だらだら食べはやめ、決めた時間に食べる
〈3〉歯を強くするフッ化物入り練り歯磨きやジェルの利用〈4〉キシリトールの利用〈5〉歯科での定期点検――を注意点に挙げる。
日常の管理に加え、3か月に1度歯科で定期点検やフッ素の塗布を受けている子供には、ほとんど虫歯はないという。また、虫歯になりやすい奥歯の溝をあらかじめ、樹脂でふさいでおくシーラント処置も積極的に取り入れている。
記者も今回の取材で初めて歯の清掃を体験し、嫌がる小学生の子供たちも点検に連れていった。レーザーを使った検査をすると、2年生の三女の6歳臼
歯(きゅうし)が虫歯になりかけているのがわかった。アメが大好きだが、仕上げ磨きがおろそかになっていたことに気づかされ、ハッとした。
歯は宝。守るには、家庭での歯磨きや食生活の配慮と、歯科でのプロのケアの二つが必要と、記者も学んだ。(渡辺勝敏)
(次は「着床前診断 読者の反響」です)
子供の歯の要注意時期
生えたばかりの歯は軟らかく虫歯になりやすく、エナメル質が硬くなるのに3年かかる。溝が深い奥歯をていねいに磨く注意が大切だ。
◆1歳7か月〜2歳7か月 乳臼歯(乳歯の奥歯)が生える。
◆6歳 6歳臼歯(第1大臼歯)という永久歯の奥歯が生える。一生使う大切な歯。溝が入り組み、菌がつきやすく、歯ブラシで磨きにくい。
◆12歳 6歳臼歯の奥に第2大臼歯が生える。歯磨きは子供任せになるが、菓子類やジュースを好き放題にとらないよう注意が必要。
(今井美行さんによる)
(2005年8月20日 読売新聞)