きょうの臨床                           
 
上下コーヌスデンチャー                 2007.9.3
 

Eichner'sの分類  C-1 
金子の咬合支持指数 0/20
宮地の咬合三角では11歯残存対合箇所0の難症例



本人は根本的に治したいとの要望で来院。
補綴されている歯牙の全てが二次カリエスで、パーシャルデンチャーが上下に装着されていました。サポートに必須のレストが右下3で破折していて、義歯沈下による歯槽骨の吸収がX-rayで顕著であった。
上下で唯一咬合している左中切歯の動揺が激しく支台歯としては期待できません。全ての咬合力が中切歯 に懸かっていたと思われます、と言うより必然的にそのような経過を辿ることが見えていなければなりませんが・・・
その対策を講じていなければここに至ることは予測できた筈です。
この時点では 、金子の咬合支持指数は 1/21 その20の咬合力を1が負担していて耐えられなくなったとき、20の加圧要素が粘膜に向かったと思われます。
したがって動揺している歯牙は少なく、その反面歯槽骨の吸収が多くなったと想像できます。
こ のような症例で病態の進行を緩め、その上で機能的に満足できる方法は何があるのでしょうか、自然の摂理と神様に逆らっているだけなのでしょうか、私は?



では、このような症例でベストな方法は、私の知りうる限るインプラントかコーヌスデンチャーしか選択肢はありえません。
インプラントを選択するには歯槽骨の吸収が多く、全ての箇所に対応することができません、したがって今後発生する多くの問題にも対処できるコーヌスとし、左下6番部にインプラントを埋入してハイブリッド(雑種)デンチャーと結論づけました。
左下2もコーヌスの支台歯に取り入れるか議論になりましたが、審美的に許容できる範囲で作る自信がなく、私の要望でPFMにいたしました。
チャレンジするべきだったと、今は後ろめたい気持ちでいます。




最終補綴が完了し機能的にも満足していただけても、今後”想定外トラブル”と”想定できるトラブル”があり、もし想定できるのであればその想定できるトラブルを未然に防ぐ対処法を施しておけばよいのではないでしょうか。

勿論 、予め対処しておける項目と回避不可能な項目とを明確にして、起こりうるトラブルを患者さんに伝えておきトラブルの兆しを見つけ易くして、問題が広がらないようにすることも大切です。

今後発生すると”想定できるトラブル”を皆さんと推測してみましょう。

”想定トラブル”+”想定外トラブル”=トラブルの総量
と考えると想定を多く推測できれば想定外が少なくなる Ooyama Theory  (?_?)

情報は少なく 患者さんは女性で現在65歳、そしてオルソと作業模型のみで推測してください、オルソを拡大しておきます。
但し、私がオルソをスナップ撮影してきたので不鮮明であり、デンタルのように正確で鮮明ではありません、申し訳ありません。
今までの臨床経験や幅広い知識を基に、あらゆる角度から違った視点でも見てください、多くの方々の目で想定できるトラブルを推測してください。
超ぷちに書き込んでいただければ、私がここに書き写します。
 

推測する想定トラブル
項目別に分けて、その中で実際発生しそうなトラブルを具体的に記載してみます。

次に想定トラブルの中で 、補綴物作成時に解決できないトラブルや現在も将来も回避できないトラブルを黄色文字で表示し、解決できそうなトラブルを青色文字で表示し、せめて青色文字のトラブルを補綴物製作中に回避できるスキルを身につけようと自分に言い聞かせています。

1)歯周組織の問題から発生するトラブル
右側上下孤立歯2本は義歯の鈎歯になっていたにも拘わらず、動揺が無く旧義歯の機能性を疑ってしまいます。
リジッドデンチャーを装着すると今まで粘膜に負担されていたであろう咬合圧が、孤立歯2本に集中し支持組織に咬合性外傷が起こらないことを願うしかないのだろう。
したがって 、咬合圧の負担はやむを得ないが、咬合位の安定と孤立歯に側方圧が懸からない咬合関係を保つよう仕上げなければならない(勿論義歯部に排列される人工歯も孤立歯の外傷に影響するので注意)。
また、左中切歯の歯根膜腔拡大の様子から動揺は大きいと想定され予後に不安がある、しかし私はこれがこのデンチャーの将来を占うキーテースと考えています。

2)根管および残存歯質から発生するトラブル
X-rayは術前のもので、補綴時の根菅内の様子や残存歯質・ダウエルコアーの状況を把握することができませんが 、補綴する全ての歯牙が無髄で有髄歯に比べ歯質が脆く歯牙の反射機構も鈍くなっていると思われます。
その上、上顎左側歯牙はポストが太くて残存歯質が少ないように見え、また縁下カリエスが深い歯牙も含んでおり、欠損側の歯質不足は今後のトラブル発生箇所あることは疑いの余地もありません。

特に、過重負担をかけるコーヌスデンチャーではポストが太くて残存歯質が少ないことや、支台歯に最低1mmのフェルールの獲得できないことは致命的で、義歯の横揺れをポスト部分で受け止めるしかなく欠損側付近の歯根破折を惹起しうる不安が常に付きまといます。

3)咬合圧(加圧・受圧)から発生するトラブル
残存している全ての歯牙が対合する粘膜面に向かい、補綴する義歯がRPIであれば受圧する粘膜側の歯槽骨の吸収が避けられなく、逆にリジッドデンチャーで補綴するのであればブリッジを装着したのと同等な咬合力が橋脚つまり残存歯に懸かると思われます。
よって、どの補綴を選択しても弊害は必ず起こりうる訳で、術者がそれらの弊害の度合いと長期の予知性を考慮して、その上で患者さんの意向をを汲み上げて選択しなければならない。
ここでの想定トラブルは予測できるが、それは避けることの出来ない宿命的なトラブルでその破壊の速度を緩める手段の選択に過ぎない。

4)残存歯の配置と構造設計から発生するトラブル
欠損補綴では残存歯の配置が補綴処置の成否に大きく関わってきます。
孤立歯が右側に上下2本存在し、特に上顎4番はデンチャーの安定や左側支台歯群の横揺れを防止してくれる重要な役割をする歯牙です。
また左中切歯根面版は前方への義歯の変異や沈下を防止してくれることで、危険を含んでる左側犬歯の遊離端側への移動を少なくしてくれる大切な歯牙で長期残存を期待したい。

下顎右大臼歯は、多分問題が起こるのはフェルール不足からくる内冠の脱離や根破折の他に、着脱ノブより遠く離れていて、義歯を外すときに常に撓む(たわむ)ような力が掛かり脚の破折やレジン床との緩みが生じやすいところである。
したがって、着脱ノブとの位置関係を考慮して脚の増強やメタルフレームとの絡みも考えておかなければならない。
また、大臼歯に対合する部分に人工歯を排列しておかないと、維持力の発現不足が生じたり、外冠が内冠から浮き上がってくることもあり、必ず排列して咬合接触させておく必要があります。

5)経年的変化によるトラブル
経年的トラブルとして扱っていいのか迷いますが、下顎33のフェーシング部と人工歯の咬耗による咬合高径の低下や変異が考えられます。
しかし、 人工歯部の咬合面をメタルに置き換えると、反射機構が鈍くなっている歯牙には、もろに支台歯や構造物に過度な荷重が掛かってしまいます。
では解決策は? 現状ではありましぇーん。

次に、コーヌスデンチャーの床を即時重合レジンで回復してる方の多いのに驚かされます。
加熱重合を採用することは、煩雑で苦労する作業ですが、長期間の使用に耐えうるにはそれを選択するしかありえないと考えています。
即時重合レジンは、多くの利点を持っていることに対して意義を唱えるわけではありませんが、経年的に観察すると欠点が浮き出てくるのです。
一つは水分吸収による異臭の発生と研磨面の艶の消失。
二つ目は強度不足による脚部の緩みや脚部に沿って破折線の発生、人工歯の脱落など多くの問題発生の根源になっています。


6)作業エラーからくるトラブル
コーヌス デンチャーを完成するには、クラウン作業からデンチャー作業まで多くの工程があり、エラーが発生する頻度が増え、アクシデントを経験することなく完成に至ることはありません。
常にエラーをあぶり出し、それを工程ごとにキャンセルしながら進めることが重要なのです。
そのエラーは2つに分類され、一つはマティリアルからくる回避不可能なエラー二つ目は操作およびテクニカルからくるエラーです。
二つ目のエラーは発見できるスキルがあれば、解決する術を考えることで回避できますし、工程を前後したりエラーの存在を確認するだけで随分解消されるのではないでしょうか?
工程ごとの確認やエラーのキャンセルなくして最終装着時の不安から逃れることはできないでしょう。
ここでは細部のエラーについての言及は避けることにいたします。


7)審美性からくるトラブル(装着後)
この項目は患者さんの審美性に対する意識で大きく左右されます。
審美性に係わる全ての部分がレジンで回復するしかない現状では、短期間に変化することは患者さんにも納得していただくしかなく、長期的に満足できるものを作ることは不可能だと思っております。
私は予め患者さんの意向を確認してからでないと、治療計画段階でコーヌスの選択肢を取り入れないようにしています。

 


内冠ワックスアップ完了




 
2007.10.15



今回のフェーシングは株式会社松風のご好意により、セラマージュで作成いたしました。
この製品の特長は、自然感あふれる色調と豊富なカラーラインナップ、ベタつき感のない操作性である。
実際使ってみた感想は、上記の特長は間違いなく感じることができましたし、 その上形態修正や研磨も快適で時間短縮できることを確信いたしました。
しかし、そのサクサク感と高い物性の両立が確実に達成されているかは、症例を重ねることと予後のチェックで今後評価されるのではないでしょうか。


シェードテーキング時の画像から既成の人工歯ではマッチするはずがなく、上顎はA3.5のシェードで義歯まで完成することにいたしました。
下顎の残存歯のシェードはC4でしたが、コーヌス支台歯をA4とし臼歯部人工歯はA3.5を採用しました。
患者さんに受け入れられるか心配です。




完成いたしました、本日装着です。


 

装着時の状況は、上顎前歯部の床が歯肉部分にあたり 3211の床を短くいたしました、また根面版軸面が接触して浮き上がっていましたので調整し、下顎はフィットチェカーにて床内面を一部分削りました。
患者さんの表現では上顎義歯の維持力が弱く感じるのと、少し浮き上がっているように感じるそうで、しかし下顎は全く違和感もなくフィットしている言っていました。
考えてみると上顎は下顎に比べ面積が多くフィットし難いことと、ロウ着による変形が発生したことが原因とも考えられます。     2007.10.15


 

翌日のチェックでは、下顎問題なし。
上顎義歯の維持力は強くはなってきたが、右に比べ左3本側は弱いので様子見です。
多分、未だ沈み込んでいないのかエラーがあったのか判断できません。
患者さんの話では、上顎のフィット感は改善され食事中でも外れることはないとのこと。
 2007.10.16



今日の上顎の状況は手で外れなくなたそうで、後暫らくすると維持力も設定した状態に戻るとは思いますが・・・
2007.10.17


一応終了いたしました、心臓移植に例えると最大の努力をし ”手術は成功しました” しかし ”生存年数は判りません” の心境です。
2007.10.17

 
      
Copy right by ooyama