きょうの臨床                   2007.6.18


17年目のコヌースデンチャーの現状とアクシデント

永田先生からメールを頂きました。     2007.7.10


17年目のコーヌスデンチャー修理への考察(1)     永田和弘

はじめに
 紹介されたコーヌスデンチャー修理の症例は極めて興味のあるものです。
本症例のコーヌスデンチャーは、リンガルバーが付されており、従来で言えばクラスプのかかるところでクラウンとデンチャーを固定的に結合(一次固定)させたものです。外冠はレジンフェーシング冠、デンチャーの人工歯はレジン歯から出発したあたりは治療費を考えてのことではないでしょうか。
 デモンストレーションのための症例ではなく、いわば日常的な症例で飾り気がないだけにドクター側からは恐らく公にはされることがない、しかしテクニシャン側の提供ということで内容としては濃くなっています。

 ここには、パーシャル100年の歴史が凝縮されていると言ってよく、修理過程の一連の解読は意味があります。
 「17年間の経過とアクシデントをお見せして、皆さまにバーチャル体験として今後の臨床の参考にしていただければ幸いです」と締めくくられているように、今後の臨床の参考となるためにも私見を述べさせていただこうと思います。

1. 既往分析  失敗は成功の母(義歯破損は義歯理解への一里塚) 義歯破損に際して、一番重要なことは「既往分析」です。
義歯破損には必ず原因があります。原因には種々ありますが、ここでは咬合(圧)に絞って考察をしてみましょう。
今回の症例(1991製作)は3回の破損を経過しています。

第一回目は  人工歯破折(1995)。(人工歯が薄くて割れたのだと思います 大山)
第二回目は  右下3の抜歯(2003以降)。
第三回目は  左下4の脚の破損です。
実はもう二つ、破損というよりは経年変化と言ったほうが当たっているでしょうが、(1)前歯部レジンフェーシングの磨耗と (2)義歯を負担している歯槽提の退縮があります。
 これらの読み解きが、義歯修理の対策となり義歯理解となります。
1)経年変化
 前歯部レジンフェーシングと義歯を負担している歯槽提、ならびに人工歯は経年的に摩滅・退縮していきます。4年目に義歯部分はメタルオクルーザルとなり、 人工歯は摩滅できなくなります。やがてレジンフェーシングは金属部分が露出することにより、摩滅がストップして、歯槽提のみが退縮を続けます。
 一般的なコーヌスデンチャーでは、クラウン部とデンチャー部の金属歯とは強固に固定されているために、顎提が退縮して義歯位が微小変化しても 歯牙位も微小矯正されて、結果として歯牙・コーヌスデンチャー・歯槽提の調和関係は続くようです。破損はこれらの調和関係の破綻を意味します。
2)応力分配の変化
 ブリッジは文字通り橋渡しなのですが、岸から岸へのブリッジと岸壁から船への橋渡しとでは構造が異なります。岸から岸へのブリッジは 歯牙から歯牙へのブリッジで一般的なブリッジです (T+Tで表すことにします)。
パーシャルデンチャーの場合は維持歯を岸壁に例えると 粘膜負担領域は海に浮かぶ船であり橋は船の沈下に対応できなくてはいけません。理解を得るために、参考例を出してみます。
 上顎67欠損の大臼歯パーシャルデンチャーは67のみならず上顎結節を含んだ広大な粘膜負担領域を一方の支持とし他方を維持歯のレストに 支持を置く歯牙・粘膜ブリッジです(T+Mで表すことにします)。
 T+T の場合はポンティックとクラウンとが一次固定されても構いませんが、T+M の場合は一次固定は許されず、クラスプによる連結(二次固定)となります。
 しかし、コーヌスデンチャーの場合は T+M を一次固定で固めてしまう技法です。ですから、コーヌスデンチャーは船の沈下に合わせて岸壁が変化してくれることを前提とした技法と言えます。つまり、デンチャーの遠心沈下によりクラウン部も遠心傾斜しますが、その運動範囲が生理的動揺度の範囲であれば許容されると考えるのです。(ケルバー)
 さて、一次固定型の T+M 型ブリッジで歯槽提の退縮が限界を超えて進んだ場合に何が生じるでしょうか。本症例の場合は左右の犬歯部への咬合圧集中です。
 その結果、まず右下3の破損が生じました。右下3の抜歯により右の直接維持歯は右下2となります。このことにより、近心レスト効果(床への応力分配の均一化)が現れて、 右下2は右下3の場合よりも少ない応力攻撃で済むことになります。次いで、左下3は歯牙は破損を免れましたが、脚が破損しました。脚の破損によりガタが生じ、それがストレスブレーカーとなり、右下3は応力の直接攻撃を免れたのです。
 人工歯破損も右下3抜歯も左下4部の脚破損も、一見悲劇なのですが、結果としてはコーヌスデンチャーの存続に寄与したと言えます。長い目で見てみると、生体が時間をかけて一番具合の悪い部分を除去し、都合のよい状況を作り出していたと言えなくもありません。
次回は既往分析を通して義歯修理の概念をお話しましょう。



1991年下顎3〜3支台によるコーヌスデンチャーを製作し、その後人工歯破折により1995年にメタルオクルーザルに置換した症例でリメイクの依頼がありました。
メタルオクルーザルの置き換えたのは、磨り減りが激しかったり薄い人工歯で破折を繰り返したためだったと記憶しています。
現在 の対合歯の状況はメタルボンドブリッジやクラウンで補綴されています。
右下3は2003年10月にダウエルコアを作り直していますから、それ以降に抜歯されたようです。

粘膜面をみると、17年間リベースされた形跡がありません、 メタルオクルーザルにファセットが存在してることに加え、2段下右画像のような歯槽骨の状態から考察すると、吸収を起こしていない故リベースしていないと判断しました。


その証拠に、修理完成時と比べてもスケルトン下部に填入されたレジンンの厚みにあまり違いが無いように感じます。
我田引水かな・・・


前歯部硬質レジンの磨り減りと左側外冠と義歯部にガタがあり義歯が上下に揺れています。分解してみると左の脚が破折して患者さん自身も認識されていなかったようで、食物が侵入していていました。脚が破折してから時間が経過しているようです。
メタルオクルーザルになっていた事とリンガルバーがあったため、大きな動きではなく緩み程度にしか感じられなかったようです。
単純に脚が折れたというのではなく、私の短絡的な性格によるものです終了後に原因と修理経過をアップする予定 です。



修理完成                        2007.6.19

脚が折れた原因として推定されるのは、第一に長い欠損にしてはとても細い脚であったこと。
次に、外注した金属床には脚部にスケルトンが乗せてあったにも係らず人工歯の排列に邪魔になるとカットして作業を進めていたこと、全て私の責任です反省。
もしスケルトンがあっても、安易な乗せ方では同じところで破折していたと思われますが・・・


現在は画像のように肩や隣接部分まで覆うようにプレートを作成してもらっています。



内外冠およびメタルプレートを再利用して、粘膜面印象から仕切り直し。
脚破折部はメタルを追加して補強しその上でロウ着しました、脚の上にはレーザーにて補強線を溶接してあります。


咬合高径が低く、肩の部分までスケルトンを延ばせませんでした。
フェーシングはメタル部分がガイドしていたし、ビーズも顔を出していたので硬質レジンを盛るスペースがありませんでした。
メタルを調整しても切縁部で0.3mmほどしかクリアランスが無く、直ぐに磨り減ってしまうでしょう。


メタルオクルザルに生じてるファセットに谷間と鋭い山脈を作り、咬合力を弱めるためのメタルカービングを施し排列・歯肉形成完了。
メタルオクルザル下方の人工歯は既存のものを利用。


17年経過しても金属にその歳月を感じませんし、内面にも傷なども存在していません。 マージン付近にも折れ曲がりなど全く無く患者さん自身が大切に扱っていただいていると想像されます。


最初の画像で確認できる旧義歯左側7破折部の存在をすっかり忘れていました。
排列途中で補強線をレーザーにて溶接してあります。
歯肉形成時右3舌側のメタルプレートの処理忘れ発見、しかし戻りませんでした。


      
完成・発送

17年間の経過とアクシデントをお見せして、皆さまにバーチャル体験として今後の臨床の参考にしていただければ幸いです。
予測して対処してあれば大掛かりな修理にはならなかったかも・・・

      
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