きょうの臨床                     2007.4.24
 
永田先生から下記レントゲンに関してのメールを戴きました。
 

BGN咬合器 永田和弘先生よりメールいただきました、メール全てをここに記載いたします。


興味ある症例ですね、関心あるポイントは!。
1.下顎は大臼歯部のみ骨吸収進む
2.上顎は骨吸収あるも骨植よし

1.下顎は大臼歯部のみ骨吸収進む
何故こんなことが起るのでしょうか先ず気になるのは右下のブリッジのSpeeカーブ。
平衡側接触で顎が左方に運動できません、つまり右咬みを強いられています。
右ばかりで咬む(右側のほうが左側よりも咬耗が進んでいませんか?)だから先ず右側が左側に比してやられる。
しかも、右下86等分負担ではなく6番に負担きつい(咬合性外傷)もしそのとき、左側ブリッジに平衡側接触があれば左側もやられる。(咬合性外傷)
両側性平衡接触ではないか、これは肩こりがきつい。
左側の平衡時早期接触部位が上下第二大臼歯であった場合は、梃子の原理で、左下6番は左上7番の倍の咬合力を受けることになり下顎のみやられることになる。

対策としては
1.平衡側接触を除去する、下顎は抜歯して当然なのであるから思い切って削合すること。骨植が回復するかもしれない。
右下8番は咬合面が全て削合されるだろう。
2.前方運動時にも右下8番は咬合させない(現状では、右下8番がSpeeが強いために、前歯では咬合できないのではないでしょうか? 犬歯は左右で咬耗の程度が異なるでありましょう。右が咬耗が強いはずです。)
3.右下6番の保定のため、またはリバウンドを避けるために当分は8番は抜歯しない。
4.歯肉マッサージをさせる。
http://www.dent.okayama-u.ac.jp/yobou/tumayouji/tumayouji4.html
http://www.pmjv7.co.jp/contents/migakikata.html

2.上顎は骨吸収あるも骨植よし
しかし、よく見てみると骨吸収があるにもかかわらず、歯槽骨頂には骨の硬化像(白板)が見られます。これは今から7〜8年以前に骨吸収が進んだ後、骨吸収がストップし
て現在は健全化している像に見えます。これだけの白板に成熟するためには7〜8年かかるからです。
7〜8年以前に何か病気でもしたか、疲労が続いた状態であったか、気になるところです。

この患者さんは本来虫歯も歯周病もかからない人であったと思われます。
そもそもが、両側の下顎8番が原因で下顎7番の抜歯となった。
この欠損を補綴しようとしたとき、平衡側接触を与えてしまった。
これが、一番考えられるプロセスです。
しかし稀ですが、まだ考えられることがあります。
この欠損を補綴しようとしたとき、平衡側接触を与えてしまった場合を考察しましたが、平均値咬合器や半調節性咬合器を使用したために、作業側早期接触を与えてしまう場合があるのです。
「平衡側早期接触」と言う言葉は聞いたことがあるが「作業側早期接触」とは聞いたことが無いといぶかる方がおられると思います。
作業側の方が先に接触するのですから、「作業側早期接触」という言葉自体がおかしいといえばおかしいのです。
実は「作業側早期接触」は私個人の造語なのです。本来ならば、作業側の犬歯ないしは小臼歯が顎運動をガイドしますから、作業側の犬歯・小臼歯が早期接触することは自然で問題はありません。
しかし、犬歯・小臼歯ではなく、大臼歯が早期に接触させてしまう人為的な異常が生ずる場合があるのです。
それは大臼歯を含む歯列修復としてグループファンクションド・オクルージョンを与えた場合に起こりやすいのです。
咬合器の作業側顆頭の運動よりも生体の作業側顆頭の方がより上方に運動する症例の場合には、その咬合器上で製作された修復物は、生体では作業時に最後方の大臼歯は犬歯・小臼歯よりも早期に咬合接触してしまうことが生じます。
生体は咬合器と異なり軟組織構造の関節なので作業側顆頭は関節窩から離れるように運動して、外見上は犬歯・小臼歯は離開しないであたかもグループファンクションド・オクルージョンの咬合接触をしているように見えます。実際には咬合紙で咬合引き抜きテストをしてみると、最後方臼歯ではしっかりと咬合しているのに、犬歯では容易に引き抜きができるという現象が起こります。
このような場合には、多くの場合早期接触する歯牙が動揺をきたします。しかし、連結されていたりすると、歯牙の動揺ではなく、作業時における同側関節顆頭の離開が生じて、顎関節症様の症状(頭痛)を生じます。
これらの原因を発見するには、作業時の犬歯部での咬合紙(ビニール製)の引き抜きテストをするか、作業側顆頭の運動を再現する咬合器を用いて咬合運動分析をおこなうしかありません。もし、犬歯の引き抜きテストで悪い結果が出た場合は、従来の半調節性咬合器で製作・調整をおこなうことは危険なことでしょう。


どこにどのような咬合阻害因子があるかを診るには調節性咬合器が必要かと思われます。
また、咬合器上で削合の意図を患者さんに説明するのが良いでしょう。
「この咬合器はあなたの顎の動きを正確に再現します」と言うと多くの患者さんは驚かれます。
最後は私の咬合器の宣伝になってしまいました。お許し下さい。

模型とレントゲンから、口腔の歴史(既往歴)が解読できます。病気は流れ弾に当たるように生ずるのではなく、その原因が必ずあります。
既往歴の追求は原因の追究といってよいでしょう。原因を明確にしないと新しい補綴物により新しい支台歯に同じ病気を生じさせることになります。
また、病気の見方を変えれば自然からの逸脱とも、また生体による新しい自然態への打開策としても考えられます。
動揺歯は異常な咬合をする歯牙を動揺させて生体が抜歯しようとしたとも考えられなくもありません。
異常な顎位や咬合の原因追求無く、動揺歯を隣接歯に金属冠で連結固定してしまうと、長年かかってようやく動揺に持ち込んだにも関わらず、修復により更なる生体への苦労を強いることになりかねません。
原因の解明なき修復は、改善への修復ではなく、原因をはらんだ問題ある現状の固定になってしまうのです。
このよううに、既往歴の考察は生態の疾患を診る場合には極めて重要なポイントですが、残念ながら医学・歯学において現症の分析は重要視されていますが、既往歴がないがしろにされています。
現症の分析は種々の機器を通して数値化・映像化できますが、既往分析は実態が既に眼前には無いためにサイエンスの俎上には乗らないからです。
模型からの咬耗分析を通して、患者さんの過去が読み取れるのです。ひょっとしたら、実際の患者さんを診ている歯科医よりも先に歯科技工士が「この患者さんは右肩がこっているのではないか」などと推察されるかもしれません。
既往分析は歯科技工士にとって興味ある分野ですが、今言ったように、まだ未開拓の分野です。
歯科技工は単なる欠損した歯牙を形態修復する技術だけではなく、修復されるべき欠損の原因を尋ねることにより、「人間とは何か」を問いただす学問・技術なのです。
「歴史とは過去との絶えざる対話」 Carr
「歯科技工とは模型との絶えざる対話」と考える次第です。

BGN咬合器 永田和弘 2007.4.24



コメント本当に有難うございました、今後の参考にしたいと思います。
 
      
 
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